今年2月、谷中にオープンした「湿板寫眞館」。
そこのご主人和田さんとは、縁あって7年程前に知り合いました。オールドレンズ遊びの第一人者と呼ばれている澤村徹さんの初期の執筆本の監修をされていたのが和田さんで、お二人には当時、うちの店でトークショーを開催していただいたこともあったのです。
先日、我楽多屋の主催で田中長徳先生、常連さん数名と一緒に「湿板写真体験企画」と題して、「湿板寫眞館」さんにお邪魔して来ました。
これから、そのレポートをしたいと思います。
「湿板写真」と言ってピンと来ない方へ、100年以上前に撮られた坂本龍馬の写真~といえば、まず皆さん同じ写真が頭に思い浮かぶのではないかと思います。あれとほぼ同じ技法で撮る写真なのです。
ガラス板に薬液を塗って、それが乾くまでの間に撮影・現像を終えないといけない特殊な技法です。撮られる側としては、撮影中に約6秒間ジッとしていないというビックイベントになります。これが実に深体験。
椅子に座って、首の後ろをつっかえ棒で押さえられます。頭の中で6秒数えて自分でシュミレーションしてみました。「あぁ、案外と短いんだ。これなら大丈夫、ジッとしていられる」と思いました。撮影の準備が整い、和田さんが「まず練習です」と言われて6秒数える間、ジッとしています。うんうん、やはり大丈夫。
「さて、本番です。いきますよ。1、2、3、4、5、6。はいOKです!」、うわぁ~激緊張しました。ジッとしていようという意識が強くなりすぎて、ピクピクしちゃうのを押さえこむ感じ。
事前に「まばたきはOKです」言われていて、その点は安心していたけど、傍らで私を見ていた常連Bさんが「二代目、凄い緊張してたでしょ!?まばたきの速さがすごかった!」と、見事に見透かされていました。噂に聞いた通り、この6秒間は今までに体験したことのない、新体験であり、深体験でした。
撮影が終わり和田さんが暗室に入ってガラス板を現像液に浸けてから数分後、定着液の中でガラス板に像が浮かび上がって来る光景は、明るいスタジオ内で一緒に確認することが出来ます。これがドラマチック。思いもよらぬ雰囲気、味わいで像が出てくるのです。
例えば、今回は常連さん数名と一緒でしたので、他の方が撮影している様子をナマで見ているわけです。今さっき自分の目で見ていた光景とは、全然違うイメージの像が浮かんでくるわけです。このワクワク感と言ったら、言葉では言い表せないレベル。
これに関しては、ご主人の和田さんも同様な感があるようです。薬液の調合や室温などの環境などなど様々な要因が絡み合って、そうそう簡単に同条件での撮影は難しくて、和田さんも想定外の現像ムラなどが出てしまうのだそうです。
そう、撮影中や現像待ちなどの時間、和田さんは湿板写真の苦労話など我々にとっては未知な古典技法について、いろいろとお話をしてくださいます。
通常、撮影は2カットして、良い方を選べるようになっています。
今回の体験企画、非常に有意義な時間でした。それを説明するのに、撮影中に和田さんが口にされたこんな言葉に象徴されているような気がしました。
「自分としては現像ムラが出てしまった美しくない方をもって帰られるお客さんも多いんですよね」、「楽しい時間をありがとうございました!と最後に言っていただけることが多い」と。
湿板寫眞館に来られる方は、撮影や現像のプロセスも楽しみながら、必ずしも鮮明で美しい写真を求めていなくて、古典技法による味わい深い何かを求めているってことなんだと思います。そう、テーマパークにでも遊びに行った感覚になれるのです。
ガラスに写しだされた像は、この世に1枚だけ。きっと一生の宝物になります。
ガラスだけで見ると像が白く見えますが、バックに黒い紙や布を置くと反転して味のあるモノクロ写真として見ることが出来ます(アンブロタイプ)。
和田さん手製の首押さえ棒の巧みさについて、議論する参加者たち。
ガラス板に薬液をムラなく広げる和田さんのこの絶妙な手さばきに一同釘づけ。
撮影中に脇からiPhoneで撮った画像の優秀さにもビックリした...。
これが今回参加の皆さん。確実に100年くらいタイムスリップしています。
撮影後、一気に現在に戻って来た皆さん。和田さんと一緒に集合写真。
* * * * * * * *
「湿板寫眞館」