我楽多屋で買った    モノ・マガジン

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2008年4月 4日 (金)

ニコンS3M

これはもう20年近く前の話だそうです。四国からあるカメラを売りに上京した人がいました。東京のカメラ店を数件回ったものの、希望の値段を付けてくれる店も無ければ、取り合ってくれる店も無く、アローカメラに辿り着いたそうです。

そのカメラは「ニコンS3M」。モータードライブによる高速連写性能を高めるために、S3を18×24mmのハーフサイズフォーマットに改良したモデルで、1960年3月から7月にかけてブラックとクローム合わせて165台しか生産されなかった超希少モデル。また、35、50、105mmの視野枠が選択式になっているのも、S3Mの特徴だった。

四国からやって来たS3Mは、ブラックボディーにモータードライブ、レンズ3本がセットのフルセット!で、お客様の買取り希望価格は70万円。交渉の結果、買取名人は少し上乗せして買わせていただくことになった。

その後、このカメラは当時新宿歌舞伎町にあった「ピンホールカメラ店」へ転売されることになる。ピンホールカメラ店はニコンやキヤノン、ハッセルなどの高級品、それも程度の良いものばかりを販売する店。それでも、このS3Mは、珍しさと高値ゆえに冷やかしの人が多く、しばらく売れることはなかった。その間、多くの冷やかしの人に触られてばかりいくことに納得のいかない店主は、なんとウインドウからさげて仕舞いこんでしまう。それから数ヶ月後、外国のバイヤーに「S3M」の話をすると、大変興味を示して買って行ったとのこと。

思いのほか、いい条件で販売できたピンホールカメラの店主は、その後、封筒にお金を詰めて買取名人のところへ持ってきたという。いい品物を回してくれたお礼というか、一人で儲けを独占しないというか、商売でありながら人情を大切にする店主の気遣いに名人は感激したと言います。

それから、またしばらくの時が過ぎ、海外のオークションでこのS3Mフルセットらしきものが、ウン百万円で落札されたという情報が流れてきました。バブルの真っ只中の話ではありますが・・・。

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*上記画像は、ノーマルのS3。前から見た姿はS3Mとほぼ同じ。

*ピンホールカメラ店:昭和20年代後半、新宿歌舞伎町に開店し、約10年ほど前まで営業していた中古カメラ店。程度の良い高級品をメインに扱っていた。店主の加藤兼雄さんは、いわゆる中古カメラ屋のオヤジ風で頑固な反面、情が深く、長く深く続く常連さんがたくさんいた。後継者不在で惜しまれながら閉店したが、加藤さんは今でも時々、アローカメラに遊びに来てくれます。