我楽多屋で買った    モノ・マガジン

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我楽多屋で買ったモノ・マガジン 第275

ウィーンモノクロームセブンティーズを5000円で買う幸せ

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今までに写真集とか本を135冊ぐらい出したらしくて、そのうち写真集は30冊ぐらいあると思いますが、写真集というものは出してから10年20年30年経つとなかなか面白く見ることができるものです。

写真集の版元で一番ビッグネームなのは、私が出した中では岩波書店ですね。いまだに日本の知識人のノスタルジーのよりどころになっています。

他の写真集でメジャーなところといえば、もう存在していない日本カメラ社。それから毎日新聞社からも写真集を出しました。この時代が面白いのは、私が熱心に売り込みをすると大手出版社も騙されたふりをして写真集を出してくれたことです。

この1~2年で歴史あるカメラ雑誌が全部廃刊になってしまって、その意味で大手カメラ雑誌の出版社を騙して写真集を出させようという、私の目論見はもう不可能になりました。

ところで、写真集の出版というのはいろいろなバックグラウンドがあるのですが、最近連続して出している禅フォトギャラリーなどは、サイズはハードカバーでスクエアで決まっていて出版物は750で通販がメインで国際的な販売もしているということで、これからの写真集の可能性を開くビジネスとしては面白いと思います。

写真集の出版で、むしろやりやすいというのは社長さんと社員さんで数人以下の小さな出版社です。この間ガラクタ屋さんで手に入れたウィーンモノクロームセブンティーズという写真集は5000円(箱にキズあり)で、これは良い買い物をしたと思いました。それというのも私は手元に自分が出版した本とか写真集は持っていないので、例えば何かの仕事でプレゼンをする時などは、日本の古本屋さんのオンラインで探したりしているのです。

ウィーンモノクロームセブンティーズというのは十数年前に出したハードカバーで箱に入っている500ページの大きくて重い写真集で、何が良かったかというと、小さな出版社に私のアイディアを伝えてそれを全部その通りに実行してくれたことです。

この写真集はガラクタ屋さんの常連さんで持っている方も多いと思いますが、1000冊限定で全部売り切った後に版元が倉庫から発見したとかいう話で、少しずつ出てきたのをガラクタ屋さんが売ってくれたのです。

面白いもので写真集を集める人々は現行商品の場合は興味を示していないのに、売り切れになると騒ぐ人がいるんですね。その意味で二代目さんはなかなか男気があるといいますか、写真集の普及に並々ならぬサポートをしてくださったのはありがたいことです。

それで普段は書かないけれども、この写真集のコンセプトをここに書いておくと、写真集を出すときはまず立体的な彫刻のイメージからスタートするということで、この写真集は1970年代当時のポーランドのワルシャワのグラフィックビエンナーレのカタログというイメージに似せて作りました。

それだけでは何のことかわからないと思うのでちょっと説明すると、1970年代の東ヨーロッパの展覧会のカタログなどに対して私が魅力に感じているのは、その本のペーパーの質がわら半紙で非常に悪いということです。

東ヨーロッパでは貧しい国でペーパーの値段が高かったのでやむを得ずそうなってしまったのですが、我々西の帝国主義から見るとその藁半紙の存在感が素敵だと思います。それで写真集の束見本というのですが、実際にどんな形の本になるかのダミーを作ってもらってこれは2つありました。1つは1000ページの写真集の柄見本で、これだと5キログラム以上あるから重くて持ち上がらない。それで実際に出したのは500ページで2.5キロだから、これだと持ち歩きが可能。

それで藁半紙の値段を調べたらこれがすごい高いんです。それで残念ながら上質紙の1番安いやつにしました。印刷は私が大好きなドイツのクラシックなモノクロ印刷マシンのハイデルベルグスピードマスターで印刷したくて、凸版印刷の孫請けの会社の板橋の果てにあるお父さんと息子さんでやっている小さな印刷所にその機械があったのでそこでお願いしました。

写真集というのはペーパーで作った彫刻みたいなものですから、あまりみすぼらしい外見だと売れません。それで表紙はハードカバーにして、それにさらに立派な箱をつけたのです。

十数年前にオーストリア大使館でウィーンの写真展をやったときに、そのオープニングレセプションでこの写真集を売りたいので印刷所に無理を頼んで、オープニング当日の夕方ギリギリのタイミングで100冊だけトラックで持ってきて貰いました。

このヘビーな写真集の1つの梱包には5冊入っていますから、12.5キログラムになります。結構な重さです。ちょうど在日オーストリア大使閣下が着任されたばかりで、我々が到着した写真集を運ぶのに騒ぎになっているので、大使閣下がボランティアでいくつか運んでくださいました。

その労力に感謝する意味で贈呈したのも懐かしい思い出です。

 

   

(2022.9)